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『女性ホルモンは賢い』

感情・行動・愛・選択を導く「隠れた知性」


『女性ホルモンは賢い』-感情・行動・愛・選択を導く「隠れた知性」-(マーティー・ヘイゼルトン著(西田美緒子訳)2018年 インターシフト)

 

“女性は気分に支配され、感情的である”そのような男性から見た旧態依然とした女性イメージは、今でも根強くあります。そしてそのような偏見の「根拠」として女性ホルモンが実しやかに取り上げられます。

しかし実は人間の性ホルモンの研究は、あくまで男性視点でしかなされていない、女性ホルモンって女性の行動に実際にどのように関わっているのか、その疑問がこの本の著者マーティー・ヘイゼルトンさんの研究の出発点でした。

 

ヘイゼルトンさんは名門カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校(UCLA)の心理学および社会・遺伝学研究所の教授で、進化心理学の観点から実証的な研究を行う科学者(もちろん女性)です。

 

彼女の実証実験は勤め先の大学の学生等を公募して集めた被験者を対象に、女性の毎月の排卵期や月経時に、対外的な行動や、匂い等の感覚や、自分の表情や、異性の好み等がどのように変わるか、その時の女性ホルモンの量的変化がどうなっているか、を細かく測定し、インタビューし、データ化していきます。そうやって様々な切り口からのデータをたくさん集め、微妙な変化と、その意味を探ります。

 

人間の女性ホルモンは「隠れた知性」

進化心理学では動物、特に人間と近い霊長類を比較対象として検討し、例えばゴリラやヒヒ類から人間への変化がどのような進化的意味があるかを考察します。

 

しかしこと「女性ホルモン」については、他の霊長類と人間、ことに現代人とは大きな差異があります。

 

それは人間以外のほとんどの生物のメスが、受胎可能期間が明確にわかるような身体的特徴をオスへ示し(例えばマントヒヒのメスの臀部が赤く腫れてくる等)、同時に積極的な受け入れ行動に出る一方、人間の場合、逆にそれが対外的にわからないようにするという点です。

 

ヘイゼルトン教授は、積重ねた実証実験から、実は人間の女性の場合も、排卵期の行動や嗜好性が微妙に変化し、同時に男性側も、無意識のうちにそのような女性の変化を“好ましいもの”として感知していることを突き止めます。

 

そしてそのような微妙な変化を女性ホルモンの「隠れた知性」と呼びます。

 

教授によれば、人間の場合女性にとって好ましいパートナーは、時代と共に大きく変化し、いわゆる“セクシャル”で集団の中で優位なポジションに立つ男性とは限らず、自分と子どもを守り、共に育てる能力もまた、良い選択肢となりうるのです。

 

人間の女性ホルモンがあからさまに自分を開示しないのは、女性がそのような自分にとっての好ましいパートナーを、自分から選べる余地を確保するためである、と考えられるのです。

 

その意味で人間の女性ホルモンは「隠れた知性」であり、賢い選択を促す大切な存在だと教授は語ります。

 

女性にとって性ホルモンは、絶えず自分が「産む性」であることを告げ知らせる、時には煩わしいスイッチのように感じることもある存在かもしれません。

 

でもそこには単に身体的な快不快を越えて、女性として生きるための知恵を知らずに告げてくれる知恵の女神でもあることを、ヘイゼルトン先生は教えてくれました。