一覧に戻る

自分の生活の反映が今の体|整体入門(野口晴哉著)

手を触れるだけで病気を治す少年

西洋医学とも漢方医学とも遠い、からだを整えるだけで様々な病気を治していく整体という治療法を始めたのは、1911年東京下町生まれの野口晴哉(のぐち はるちか)です。

 

彼については、手を触れるだけで病気を治す等、少々神秘的、あるいはオカルト的な語られ方がされていて誤解も多く、その射程の長い「身体哲学」は十分に理解されているとは言えません。

 

野口の考え方は、私どもの「バランスアルファ」の世界観と共鳴するところも多く、ここでは彼の考え方のエッセンスが語られている「整体入門」を紹介し、野口晴哉の身体観に近づいてみたいと思います。

 

野口晴哉は、彼が12歳だった1923年に関東大震災を経験しました。彼自身も家を失い焼け出されましたが、同じく傷つき、または直後から不衛生によって蔓延する疫病等で苦しむ被災者を、その身体に触れて愉気を送ることで治癒させる不思議な少年として一躍脚光を浴びることになりました。

病気は体の使い方を修正するチャンス

その後、17歳にして「自然健康保持会」を設立、治療者の道を歩み始めます。しかし、野口は「病気を治す」という考え方そのものに疑問をいだき、30代で治療行為から身を引き、1956年文部省体育局から認可された「社団法人整体協会」を設立して、整体法に立脚した体育的活動に専念することになります。

 

「体育的」とは文字通り体を育てることです。野口はまず「健康」とは体のその時の状態であると定義したうえで、こう説きます。『自分の生活の反映が今の健康なのです。自分の体の使い方の結果が今の健康である。異常なら自分の使い方の結果が異常なのです。だから異常を起こしてそれを治そうとするなら、体の使い方を改めなければならない。そして病気とはまさにその体の使い方の異常を確認し、自覚し、修正する大きなチャンスだととらえます。』(「風邪の効用」より)

体の癖が体を歪ませ病気をもたらす

しかし、その場合でも、「人間の体には意識しないでバランスをとる要求があります。人間は快い方向に動いていれば健康になるし、健康になればどういうことをやっても快くなる。それを意識で良薬は口に苦し、というようなことを考えてしまう、それは間違っています。頭を通さないで、意識以前の快さをそのまま感じて、それが行動につながるように生活すれば、人間は自然に丈夫になる」として、意識を閉じて体を活性化する「活元運動」を提唱します。

 

野口晴哉の整体法の前提は、人間の体の癖は人によって違い、それは生まれながらのもので変えることはできない、という身体観です。彼は体の癖(体癖)をその特徴によって12種類に分類しました。そして体癖の違いによって体の整え方が違う、として体癖に合わせた12種類の整体体操を発案します。

 

野口の体癖論は、人間はその嗜好性(欲求)によって動こうとするが、それは特定の嗜好性に偏りがちであり、その結果が体癖として現れる、そして体癖が時に体の歪み=病気をもたらす、だから体の歪みを治して健康体へ戻すとともに、体癖=特定の嗜好性を意識的にコントロールしていくことを、体を使って行うことを目指しているようです。

体を整えれば心も修正できる

西洋医学=自然科学が「心=精神」と「体」を二分し、体を心とは切り離されたモノとして扱っていくのに対して、野口晴哉は体は意識や欲求の反映として存在し、体を整えることで、逆に意識や欲求の修正を図ることもできると考えました。

 

免疫システムなどは、ストレスや気分感情が直接その出力に影響を与えるという点では、野口晴哉の身体感で見ていくほうが理解しやすいし、整えやすいといえるでしょう。

 

残念ながら、野口晴哉の整体法は、野口が61歳で死去したこともあって広く普及されていくことはありませんでした。彼の整体法を真似て様々な施術者が今も生まれては消えてを繰り返しています。しかし彼らはその整体法を自分施術者としての特殊技能として抱え込み、野口晴哉のような体育的発想には至っておりません。

 

逆に今、瞑想やロルフィングなど海外発の野口的身体観が日本に流れ込んできています。その意味で野口晴哉は50年ほど早く生まれ過ぎたと言えるかもしれません。